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<スピンオフ> 第1章 安西航 14

last update Huling Na-update: 2025-07-19 20:43:04

 22時半――

「それじゃあな、琢磨」

航は居酒屋の前で琢磨に手を振った。

「ああ、それじゃあな」

そして2人は互いに背を向けて歩き出し……航は振り返ると琢磨に呼びかけた。

「おい! 琢磨っ!」

「何だ?」

歩きかけていた琢磨は振り返り、航を見た。

「琢磨、お前いつまで沖縄にいるんだ?」

「ああ、明日の昼には帰る」

「はぁ? お、おい……その話本当か?」

航は琢磨に駆け寄った。

「ああ、そうだ」

「冗談だよな?」

「冗談を言ってどうするんだよ」

「だって……あんなに荷物を持ってきていたじゃないか」

「それなんだが……本当は2、3日は滞在予定だったんだが会社でちょと取引先とトラブルがあったらしくて二階堂社長から電話が入ったんだよ。だから明日戻ることにしたのさ。悪かったな、肝心な事言い忘れて」

「ったく……何だよそれ。折角明日は何所か観光案内してやろうかと思っていたのに」

「ああ、悪かったな。なーに、又来るさ。その時はよろしくな?」

琢磨は航の背中をバンバン叩いた。

「ああ。よし、それじゃ飛行場まで送ってやるよ」

「そうだな。頼めるか?」

「ああ、勿論だ。10時にホテルに行くから待っててくれ」

「分った、それじゃ明日な」

2人は今度こそ、手を振って別れを告げた――

****

 事務所までの道のりを航は酔い覚ましも兼ねてブラブラと歩いていた。空を見上げれば満点の星空が輝いている。

「やっぱり沖縄の夜空は綺麗だな~こんな星空を朱莉と2人で見れたら……」

しかし、そこで航は首を振った。

「駄目だ……もう朱莉は今度こそ本当の人妻になってしまったんだ……。諦めなくちゃいけないって言うのに……」

航は深いため息をつきながら事務所まで歩き続けた――

 事務所に到着したのは23時になる頃だった。

航は欠伸を噛み殺しながら電気をつけると、まず始めにPCの電源を入れた。仕事の依頼が届いていないか見る為である。スマホでも見る事があるが、中には添付ファイル付きのメールが届くときもある。なので航は仕事の依頼は必ずPCでチェックするようにしていた。

「あれ……?」

その時、航は1通のメールに気が付いた。それは茜からであった。

『安西さん、依頼したいことがあります。メールではお話しにくいので、明日の18時に事務所に伺ってもよろしいでしょうか?』

「……?」

航はそのメッセージを読んで首を捻った
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